162 鶏レバーをさばきながら少しセンチメンタルになる

遠い日、縁日で買ったヒヨコは大きくなって・・・。

家にはその昔鳥小屋があった。そこに住んだものは覚えている限りでは2羽、オナガとニワトリ。

いつか来る手放す時を思いもしないで可愛がっていた。

オナガは傷ついたのを拾ってきた。往々にして傷ついた鳥というものは翌日息絶えていたものだったが、そのオナガは元気を回復した。その鳴き声の賑やかなこと決して美声とは言えなかったが妙に愛着を感じるのに一役もかっていた。名前を「ガチャピン」とつけた。

元々野生のものをやがては手放さなければならないことは知っていた。すっかり元気になったオナガを家族の誰にも言わず俺は空に放った。

その後、近くで「ガーガー」と声がするたびにあのオナガのような気がして声の主を探したりもしていた。何年も何年も。オナガの寿命など知らないが、ガチャピンがそばにいるような気がしていた。



或る時は縁日で買ったヒヨコがそこの住人になった。縁日のヒヨコは育たないだろうと誰かが言った。そして必ずオスだとも。前者の予想に反してヒヨコは大きくなった。とさかつきである。後者の予想は当たったわけだ。

ニワトリというものは気性の激しい動物だと一緒に過ごすうちにそう思った。小屋から出して遊ぼうものなら脱兎のごとく逃げ出した。当時家にいた犬がそれを捕まえてくれた。その時のニワトリの顔を思い出すたびにクスリとなる。

家族が(ニワトリは)もうすぐいなくなるかもしれないよと言った。その頃にはもう俺の興味も薄れていて毎日食べ物をあげるくらいのことしかしていなかった。

ある日学校から帰るとニワトリはいなかった。何故だか泣けてきた。今夜あたり誰かの胃袋に入るんだろうと思った。



店で鶏レバーが安いのを見つけ買ってきて甘露煮を作ろうと下ごしらえのためにさばくときにこの2羽の鳥のことを思い出した。