89 夢の土台⑤「生活の土台」

なんとかなると思っていたんです。

仙人になりたいと思ったことはなかったが、男一匹食っていくくらい何とかなるという考え方に親しんでいた。そうなると食い扶持は稼がねばならぬ。それが生活の土台。低いハードルだがそんな生活でいい。そう思っていた。

野菜を作ってそれを食う。米と肉は手仕事等で得られる収入でと。

つまりできる限りの自給自足の生活をしようと思っていた。親密になった人にはそれを語ったことはあったが、皆一笑に付していた。その意味が分かった。

恐らくはやればそのまま突き進むことができただろうし、やってしまっていたかもしれない。しかし、そこに後悔はないのだろうか。

つまりは誰とももう関り合いになりたくないことから生まれた夢だったから今こんなにも人と渡り合いたい気持ちになってみると自分でも笑ってしまうくらいバカな夢のもち方だったと思う。

それはともかく手仕事の方は繊維の仕事を選んだ。これももうだいぶん前に見聞きしたことから生まれてきたものだが、原材料さえ自給できる、それが都合が良かった。

さて、なんだか一人で生きていくためにもった家だったり、仕事だったりの夢なのだが叶わない部分が多くなった今何を捨て何を残すかというところで逡巡している。もう俺の一部となったものもあり、またこの十数年関わってきたことは惜しいとさえ思える。

形を変えて、土台をしっかりと組んで使えるものは使ってこれから生きていくのだろうと思うよ。

そういう意味で家作りで残ったものが基礎だというのが象徴的ではある。

夢の土台・完