54 冬の夜の虫

滅入りそうな時には動くのが一番です。

寒波がやってきているそうで出不精になりがちだが家で滅入っているよりは外に出た方がいいと風邪をひかないように支度をして午後3時頃から出掛ける。おまけに土曜ではないか。人ごみはできれば避けたいがそれよりも外出したい気持ちの方が勝った。

「何しよう」

この寒い時期にわざわざ出かけてまでしたいことリストはかなり貧弱だ。わずかな一つ一つも決して一つだけだったら外出するモチベーションを満たさなかったであろう。

したいことの一つにイルミネーションを見たいなというのがあった。いい所はないかなと日頃ネットにあがっている画像を見ているのだがなんとなく公園に広がるパノラマのようなイルミネーションよりは街の風景に溶け込んだ景色が見たいと思った。光に寄っていく夜の虫のように。

いくら日が短くなったとはいえ点灯されるまでにはまだ時間がある。リストにあるすべてを実行しても時間は余りそうだった。雑踏を潜り抜けふと占い師の前で立ち止まる。見てもらった話はよく聞くが自分が見てもらったことはなかった。ここはいっちょと勧められるままに席に座った。

この時点で半信半疑である。占い師の手口は知っているからなるべく自分のことは話さないことにしようと思った。本当は占ってほしいことも。

 

総合的にと告げると名前と生年月日だけを用紙に記入し鑑定を待った。どうやら一花咲かせるとするとそれは2020年らしい。いろいろな内容を聞いたが最後に人生のパートナーについて触れてくれた。

俺、どうやらこの先そういう人が現れるらしい。(笑)女性と言わなかったところに見透かされている気持ちにもなったが、まあいい。

占いが終わってすっかり日は暮れていた。他の用事を済ませて駅から大通りを行くと目的のものはそこにあった。あまり時間はかけなかった。冬の虫は寒さが堪えるのだ。

f:id:deex:20181209084841j:plain

軽く身震いしてからいつもの場所に寄る。クリームシチューと先輩方の話で心まで温かくなった。

こんなふうにもう滅入ってはいない自分になった。