115 ホールインワン

ゴルフはできないんですが。

前提として財布に小銭が貯まって来た時のこと。買い物客はやや混み、そういう時には俺はセルフのレジを使う。あいにくいっぱいだったが、並んでいる人はいない。セルフレジを使う男は俺好みの場合が多い。その時も一人いたような(笑)

たくさんの買い物をレジに通している夫婦がいた。その夫婦の次が俺だった。会計をしようと最初の商品をレジ袋に入れようとしたその時、レジ袋には先客があった。それはスモークサーモン。

「ちっ」

俺の買い物ができないじゃん。こんなとこにスモークサーモン置いてくなよ、食っちゃうぞ。そんな優しさの欠片もないようなことを考えつつもそばの店員に声を掛け、スモークサーモンを渡した。

「まだ間に合う」とかなんとか言いながら走る店員。

良かったな。あれなら間に合う。

それで終わりのはずだった。店員が戻った少し後でその夫婦の奥さんの方が礼を言いに来た。そんなことはこの時世で起こるとは思わなかったから俺は「ちっ」となったことを後悔した。その裏側ではとてもまだまだ捨てたもんじゃないうれしい出来事だったと思ってもいた。

話はこれでは終わらなかった。今度は俺のミステイクの番が来た。

金を払うところでなるべく小銭を減らそうと50円玉を出した時だった。硬貨は手から滑り落ちた。先ほどの店員が駆けつけてくる。「落としましたか?」俺はそれほど必死にではなく落ちたはずの硬貨を探した。店員も探してくれている気配がする。

だが床に落ちた音はしなかったよなあ。まさかと思ってレジ画面を見る。すると金額表示は50円になっていた。

そう、俺の手から滑り落ちた硬貨はレジの硬貨口に吸い込まれていたのだ。こんなことがあるのだなと感心するも先ほどの褒美なような気もしてまたもや苦笑いをする。

こんな優しさの欠片もないようなおっさんが褒美をもらってもいいのか?(笑)