220 理想の人と「男はつらいよ」

少しはぐらかして答えるのが常になっていた。今じゃあとんとそういうこともなくなっているのだが。

長いこと独身でいると結構頻繁に浴びせられる問い。それは「どんな人がタイプなんだ?」というもの。俺には予め用意しておいた答えがあった。それは「いつの間にか隣を歩いている人」だった。それは確かに自分の正直な気持ちだ。そう、そんなところで俺は嘘をつけない。

だが、少しずれている。多分質問者はそういうことではなく容姿がどうかとか、性格はどうかとかそんなことを聞きたいのだと思う。まあでもそうやって少し天然を装いながらそんな問いをかわしてきてはいたのだ。(実は装っていたのではなかったという説もあり)

しかし、たいていの場合そこでかたが付いていたのではあるが極稀に「いや、そうじゃなくてさ」とさらなる追求をするやつもいた。それについても答えは用意してあった。それは・・・。

答えの前にその答えを用意するに至った映画の話をしよう。それが「男はつらいよ」である。多分自分から進んで見るような映画ではないからバス旅行の時に見たんだろうと思う。もうかなり前のことだから正確ではないかもしれないが記憶を紐解いてみると確か同じような問いが発せられていた。その時に(寅さんが言ったのではないと思う)「額の広い人がいい」と答えていたはずだ。「そういう人は聡明だから」というのが理由のようだった。確かに倍賞千恵子さんは額が広い。そう言われてみると非常に好ましく思えた。俺はこれだと思った。俺のでこフェチは多分そこに端を発する。

どうやら俺の額は母方の血を多く受け継いでいるらしい。祖母の写真を改めて見てみると確かに狭い。きっとないものねだりなのだと思う。

さて、最初の答えに戻ると今の状況だと答え通りになるのは少し先のようだ。そんな理想が現実になるのを確信しながら日々を暮らしている。