18 ある仔猫と男の9日間
他の人に拾われたならよかったのにね。
男の生活は何の色もない単調なものだった。
住宅街のはずれの小屋の軒下に段ボールがあった。雨は容赦なく段ボールを打ちもう矩形をとどめていなかった。中には猫。鳴き声を上げることもせず震えていた。
男はその場でも躊躇した。拾ったところで育てられるかどうかはかなり危ういと思った。それでも猫の様子を見ておきながら見捨てることができなかった。
「どこかに持ち込めれば」
取り敢えずまず手当をしてもらうために動物病院に連れて行った。
「生後1週間といったところですね」
「体を温めれば大丈夫でしょう」
「しかし、前足に縛られた跡がありますね」
「面倒をみられますか?ミルクは・・・
猫など拾ったこともない男は獣医師の話を聞くうちに大変なことを背負ったことを悟った。その足でペットショップに向い必要なものを買い揃えた。
そんなことをしているうちにすっかり世話をする気になっていた。ネットでも調べたが、「目の開かない仔猫を拾った場合、ある程度までは育てないと引き取り手はない」との文言に少し救われた気がしていた。
翌日からは仕事があったが、男は猫を車に乗せて空いた時間で世話をした。何とかなっているような気がしていた。
夜は夜で3時間おきに起きてはミルクを与えた。赤ん坊を育てるとはこういうことなのかと眠い目をこすった。
木曜日、男は猫のおもちゃを購入した。まだそれでは遊ぶことはできないのは知っていた。明らかにこの先の猫との生活を思い描いていた。
休日には仔猫を車に乗せて郊外へと行き、本を読んだ。猫がいなければそんなことをしようとは思いだにしなかっただろう。仔猫は目が見えるようになったのだろうか。本を読む男にすり寄ってきた。
長雨の後の日差しは柔らかく、男は猫のものだか日差しのものだかの温もりに眠ってしまった。
翌日、仕事が忙しくなりなかなか仔猫のところには行けなかった。昼に様子を見て安堵していた。
仕事を終え、車に戻ると生き物の気配がしなかった。仔猫はシートの上で冷たくなっていた。
家に帰ると男は猫を丁寧に箱に入れ、保冷剤を入れておいた。
翌日、休みを取り調べておいたペット霊園にて荼毘に付した。秋の青空に煙が上っていった。
そんなことがあった。(かなり脚色があるが)
とても残念な出来事であった。仔猫には申し訳ないことをしたと思うと同時にこの後俺自身に大きな波が来るような気がしていた。
今思うとそれは事実になったようだ。